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新潟日報 2022年10月30日 にいがたの一冊
本県との結びつきも探る

滝沢規朗(新潟県文化課)

 同じ日本海に面し、新潟市から直線距離で500キロ以上離れた出雲国(現在の島根県東部)。現代の交通網の整備状況から距離以上の遠さを感じるが、古事記や出雲風土記に登場する出雲大社の祭神・大国主が、頸城のヌナカワヒメに求婚した記述からも、太古の昔は当県との繋がりが深かった。その出雲と当県を含む全国各地の繋がりを、前著『出雲を原郷とする人たち』をベースに、系統立てて綴ったのが本書だ。
 著者の岡本雅享氏は出雲市古志町の生まれ。出雲風土記から、古志(越)国からの移住者が住み着いたことが町名の由来と知って関心が高まり、15年前から当県を含む北陸(越)を訪問するようになったという記述から始まる。誰にでも少なからずある自らのルーツへの関心。時空を超えた壮大な自分探しの旅の出発から終着まで、日本海交通でつながれた当県の記述の多さが目を引く。
 出雲と各地の関連を探るにあたり、著者は①出雲に関する地名、②出雲神を祭る古社、③神話と伝説、④考古学的発見の4要素で丹念に検証を進めていく。出雲に関する地名が全国で最も多いのは当県で、その数は島根県を上回るという。生活情報誌・月刊キャレルで近年特集された全国一の数を誇る当県の神社も、出雲神を祭る古社が多く登場。神話と伝説を加えて出雲の関連に踏み込む記述は、目からウロコの連続である。
 私が生業とする考古学の成果も物的証拠として随所で引用され、当県の阿賀野川あたりが北限となる出雲文化が、信濃・会津・北関東に流入するにあたり、越後が重要なルートとなる点は考古学の成果とも一致する。出雲大神とヌナカワヒメの御子神で、越では能登の珠洲岬が拠点のミホススミの重要性の記述で本書は結ばれており、当県の歴史に多くの気付きを与えてくれる。
 本書は当県の記述の多さや新鮮な解釈だけでは語れない。「古事記や日本書記だけが日本の神話ではない。各地に伝わる郷土の神話も貴重な歴史的文化的財産であり、畿内でまとめられた神話との間に優劣があるべきものではない」という著者の姿勢は、中央からの同心円的な文化の拡大という中央集権的国家像を批判的に捉えており痛快である。中央との繋がりが地域史の全てではない。様々な地域間の繋がりから、この列島の社会や文化の多元化が醸成されたとする解釈は、教科書に掲載されていない地域史の追求には必須の視点。是非ご一読を。