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宮古毎日新聞 2011年5月12日 
外の眼から内の目へ 自然治癒力の回復を―社会学博士 岡本雅享さん

 「神が健在な所では、妖怪も生き延びられる。それは今も人間に支配されない自然が残る地域」と話す岡本さん。5年前から宮古諸島に通い、自然神道の本流や民族意識の多様性をさぐる。ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)が「神々の国」と表し、ゲゲゲの鬼太郎の作者・水木しげるワールドの源泉でもある出雲国(現島根県東部)の出身。

宮古島の砂山ビーチ
宮古島の砂山ビーチ

  「大和人の神は天から降るのですが、出雲人の神は海から来て海に帰る。沖縄の方に似ています。宮古の白い砂浜、緑の海を見た時、この海は出雲と繋がっていると感じました」という岡本さん。出雲の旧暦十月の神迎え祭で、神々の到来を伝える「龍蛇様」は、琉球弧近海から北上し、その季節だけ出雲沿岸に寄り来るセグロウミヘビで、出雲大社近くの猪目洞窟で縄文時代のゴホウラ貝の腕輪が出ているなど、琉球弧と出雲のつながりを示すものは少なくないとする。

初めての宮古島訪問で「池間民族」の存在を知り、その民族意識に惹かれた。「民族の概念は混乱していて、池間民族という呼称に違和感を覚えるという人もいますが、民族は、もともと『出身、言語、文化の共有によって特徴づけられる人間のまとまり』を意味したnationの訳語として、1880年代の日本で創られた漢字用語。つまるところ、民族を民族たらしめるものは、学者の科学的線引きなどではなく、本人たちの民族意識」とし、池間民族の場合は、池間島を元島として、文化や言葉の異なる伊良部島や宮古島に移住した人々の同胞意識に根ざしていると判断する。

南洋ゴホウラ貝の腕輪(縄文時代の)が出土した猪目の洞窟(出雲市)、出雲国風土記が記す黄泉の穴とされる
南洋ゴホウラ貝の腕輪(縄文時代の)が出土した猪目の洞窟(出雲市)、出雲国風土記が記す黄泉の穴とされる

「人間は自然の一部、自然を破壊すれば、人間も壊れる。自然破壊は神殺しでもある」という岡本さんは、神道の本髄は、書物の中にあるのでもなければ、儀式や戒律の中にあるのでもないというハーンの言葉に共感する。

 「島にしかないものを失わないためには、自立することが大事」という岡本さんは十年前から大学の政治学の講義で、映画「さよならニッポン」を見せ、「自治とは何か」「国家とは何か」を学生に考えさせてきた。この映画は1995年に池間島をモデルに撮影され、大きな話題を呼んだ。リゾート開発による島の自然破壊、特に御嶽の破壊が島民の怒りを買い、人口800人の島が独立へ向かう。「人口や規模が大きくなれば、いい政治ができるというわけではない」と説いてきた。

大学では、多文化社会論や東アジア関係史を講義する傍ら、現場を肌身で感じるため、国内外を飛び回る。福岡県立大学人間社会学部公共社会学科准教授。

 

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