週刊東洋経済 2022年10月8日 Book Review #04
人や文化伝播の流れから“もう一つの日本”を描き出す

  民族・移民研究の手法を駆使してその実像に迫った出雲論だ。古代出雲国から各地に移住した人々や文化伝播の足跡を探っていく。
 石川や新潟を経て東は北関東まで。山陰道でつながる京都・奈良、出雲街道沿いの広島やそこから潮の流れで至る愛媛、和歌山、出雲以西では福岡にまで、その影響が達したことを明らかにする。
 興味深い指摘も少なくない。北関東への伝播は新潟―諏訪―東山道というのが通説。が、このルートでは4つの要素(出雲由来の地名、神々、神話や伝承、山陰系土器の出土)に欠けるとし、出雲の足跡が色濃く残る会津と北信経由の2ルートが伝播の道だと比定する。
 そして北信の神社に祭られたミホススミに着目。出雲神と高志国の女神の御子でありながら、諏訪神と混同されることもある。忘れられた神の実像に迫ることで、新たな出雲像を描き出している。
 

 

 

産経新聞 2022年11月20日 産経書房

 陸上交通だけに注目すると、文化は中心から周縁へ同心円状に伝わっていったと考えられる。しかし、「海の道」に目を向ければどうか。本書は古代日本海を舞台にした文化の広がりを、出雲から能登、新潟、さらに信濃、武蔵へと追っていく論考。導いたのは対馬海流だった。
 中でも著者が注目するのは、奈良時代に編纂された地誌「出雲国風土記」に登場するミホススミという神。出雲のオオナムチと高((越)のヌナカワヒメの間に生まれた、今では忘れられた形のこの女神こそ、日本海交流圏の象徴だと説いている。