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熊本日日新聞 2014年12月21日 
多様な共同体の日本

山ロ和幸(あさぎり町議)

 王政復古を掲げて近代国家建設に乗り出した日本は、記紀神話にルーツを求めて「大和民族」という概念を創出した。同時に、大和に「まつろわぬ」人々とされた出雲・エミシ・クマソなどの「民族」も生み出したと著者は言う。本書は大和中心の「Nation Building」(民族意識や国民の形成)を出雲・エミシ・クマソの視点から捉え直し、戦後の規格大量生産型近代工業社会で広まった同質社会観(単一民族・言語・文化など)で覆い隠された日本人内部の多様性を解き明かす。

才園古墳の横穴式石室(熊本県球磨郡あさぎり町)
才園古墳の横穴式石室(熊本県球磨郡あさぎり町)

 出雲出身の著者は記紀と「出雲国風土記」を比較することで、出雲が相当長期にわたって独立性を保持したことや、日本海を介して朝鮮半島などと独自の交流があったことを示す。また、東北のアテルイ復権運動や、評者も関わるクマソ復権運動を紹介している。

 私はクマソの子孫である。クマソは大和朝廷にまつろわぬ「化外の民」で、貢ぎ物をしない「礼なき」人々ゆえに征伐されたとされるが本当だろうか。球磨地方で出土する弥生時代後期の免田式土器はまるで美術工芸品のように美しく、気品に満ちあふれている。才園古墳から出土した鎏金(金メッキ))鏡は全国で3例、しかも縁の部分に華麗な文様のある画紋帯神獣鏡は国内唯一で、現在の中国浙江省で鋳造されたことが確認ざれている。地下から出てくるものにウソはない。私たちの祖先は素晴らしい文化と高い精神性を持ち、早くから中国に目を向けていた開明的な種族だったはずだ。クマソを蛮族と位置付け、征伐(だまし討ち)した時の権力者の行動を正当化する中央史観になじむことはできない。

 著者は同質文化幻想を批判し、日本は「古代から続く多様な固有の歴史をもつ諸民族の連合体」であり、「多種多様な共同体の総体としての日本であってこそ、より健全な愛国心も育める」と、多元国家観に基づく民族意識の再構築を訴える。同感である。本書は健全な愛国心と郷土愛を高めるものである。

 

掲載紙面

『熊本日日新聞』2014.12.21