昨春本紙文化面で連載された「越佐と出雲―交流をたどって」(全7回)をご記憶の方も多かろう。本書はその筆者が『山陰中央新報』で2011年春から昨年初めまで連載した「出雲を原郷とする人たち」(全104回)を1冊にまとめたものである。
著者は島根県出雲市古志町の出身。733年の出雲国風土記が「古志の国人ら来到りて堤をつくり、宿居りし所なり」と地名由来を記す旧神門郡古志郷だ。ならば、その越(越前・加賀・能登・越中・越後・佐渡)にある出雲地名も、出雲人が移り住んだ地なのではないか、と閃いたという。そして列島各地にある「出雲」地名や出雲神社を手がかりに、出雲発の人の移住や文化伝播の足跡を追っていく。
新潟県内では出雲崎町や妙高市小出雲、上越市や見附市の出雲(字名)の地名由来を、歴史を遡って解き明かす。越佐には出雲系の古社も多い。私の住む糸魚川は、神話で出雲の大国主神と結ばれたヒスイの女神、奴奈川姫の本拠地だ。そのヒスイの最上質の勾玉が出雲大社の摂社から出土し、二神の御子神が能登半島の先端(珠洲岬)と美保関に鎮座する。こうしたことから、海路による深い結びつきがあったらしいことは、私も拙書『奴奈川姫とヒスイ文化』などで述べてきた。その実態を丹念な現地取材と、各地の郷土史を結び合わせることで見事に解き明かしたのが本書だ。
著者は越後海岸や佐渡に散在する出雲系古社や出雲神の伝説、山陰系土器や「出雲真山」と書かれた木簡といった考古資料の情報などをパズルのように組み合わせる。佐渡の老舗旅館・出雲屋や、北前船が運んだ出雲節が在地化した新潟船方節の伝承者を訪ねるなど、話は近世から現代にも及ぶ。
本書には列島各地の国々が登場するが、越後・佐渡国だけで全体の5分の1、越全域で半分近くを占める。それだけ出雲との縁が深いのだが、越佐と能登、信濃や会津など周辺地域との繋がりも、おもしろい。かくいう私も、ルーツは能登の土田庄だ。そこに出雲地名(石川県羽咋郡志賀町出雲)と出雲神社があり、出雲から海を渡って来た集落開祖の家もあることを知った。各地の郷土・庶民の歴史を結び付けることで、海を介した広範囲の人の移動や文化伝播の営みを活き活きと描き出している。本書には、実に多くの新潟県人が登場する。鋭い洞察力と明確な道案内で、越佐と出雲の縁を辿る旅が存分に楽しめる一冊だ。