神話の地・出雲から遠く離れた列島各地に「出雲」という地名や神社が多数存在するのはなぜか? 各地の「出雲」を訪ね歩くとともに、神話・伝承・考古学・郷土史を博探し、「海の道」をメインに各地へ伸びた出雲文化の広がりを解き明かす(以上、紹介文より)。
「出雲」のキーワードを、出雲の内ではなく外に求めて探究した興味深い一冊『出雲を原郷とする入たち』がこのほど出版された。
著者は出雲市出身の社会学者で福岡県立大学人間社会学部准教授の岡本雅享さんで、「山陰中央新報」に5年間にわたって連載されたものを単行本にまとめたもの。
出雲からの人の移動、文化伝播の足跡を訪ねての「海の道のフロンティア」の序に始まり、筑前、周防、越前、加賀、能登、越中、伊予・讃岐、備後・安芸、紀伊、越後・佐渡、信濃、岩代、武蔵、上野、大和、山城、丹波、播磨、更には壱岐・新羅と、広範囲に出雲を探し求める旅が展開する。
備後国からは、「尾道の出雲屋敷/陣幕久五郎も通った出雲街道」として、尾道市文化振興課の西井亨学芸員の案内で、松江藩の出張所と伝え、現在は宿泊施設として再生されている「出雲屋敷」と、東出雲町(合併後は松江市)出身で、尾道の初汐久五郎のもとで修業した名横綱・陣幕久五郎の足跡を訪ねている。
「本書は私が行ってきた民族・移民研究を、自分の出自に応用したものでもある。私自身、出雲を原郷とし、移住した出雲人だ。大学進学で、生まれ育った先祖代々の地、出雲を離れてから、日本の首都圏や北京、福岡、サンフランシスコ湾岸と、いつしか出雲の外で暮らす年月が上回るようになった。新聞連載は、そんな私が同郷の末裔たちが移り住んだ地を訪ね歩きながら、自身のアイデンティティを探る旅ともなった」と、「あとがき」の中で岡本さんは述べている。
第84代出雲国造で出雲大社宮司の千家尊祐氏が、「出雲とのご縁に結ばれた地がかくも広きにわたっていること、出雲の人々の遠祖が辿った遥かなる道程に思いを馳せていただければ、私にとりましても大きな喜びです」と「発刊に寄せて」を綴る。