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小学館月刊サライ 2014年11月号 
いまこそ読みたいこの2冊

三浦佑之(立正大学教授)

 私は日本列島や日本人をどうとらえるのか、それを未来にどう繋げるのかということに関心があり、その視点から2冊を選びました。1冊目は赤坂憲雄の『震災考』です。(中略)

周縁の多様な文化を見直す

 もう一冊は40代の若い社会学者、岡本雅享が書いた『民族の創出』です。日本は近代国家の仲間入りをする際に、「記紀神話」に民族のルーツを求めて天皇制国家を樹立、ヤマト民族という概念を作り出しました。ヤマト政権は「まつろわぬ者」とされた出雲、エミシ(東北)、クマソ・ハヤト(南九州)を服属させ、版図を拡大します。そして近代以降も、中央集権的な世界観のなかで、これらの地域を周縁に追いやってきた。そうした歴史を膨大な資料を駆使して見直してゆきます。

 
富山県が1994年に作成した環日本海諸国図(平6総使第76号)。新羅、筑紫、出雲、高志、渤海などが古来、海の道でつながっていたことがうかがえる
富山県が1994年に作成した環日本海諸国図(平6総使第76号)。新羅、筑紫、出雲、高志、渤海などが古来、海の道でつながっていたことがうかがえる

 著者が出雲出身ということで、出雲に関する記述が多いのですが、興味深かったのは日本海文化圏の話です。ヤマト政権の支配が全国に及ぶ前には、筑紫(九州北部)、出雲、高志(北陸)、さらに新羅や渤海などと海の道で繋がり、活発な交易が行なわれていた。今では寂れたイメージがありますが、かつては日本海側の方が遥かに発達していた。それも中央集権的な単一の中心ではなく、いくつもの拠点が併存していました。

 とにかく、日本列島には海を渡ってきた多様な人々が住んでいて、決して単一民族ではなかった。それは最近のDNA解析でも明らかになっています。中央至上主義的な発想から脱して、多様性を認めた社会をどう作ってゆくのか。多くの示唆が得られる本です。