米国ハワイには、数多くの神社や日系寺院があり、長いものは1世紀に及ぶ歴史を刻む。日系移民が北米大陸に建立した神社が、戦後ことごとく廃絶されたのとは対照的だ。
そこにはポリネシアをルーツとするハワイ先住民族の文化・信仰に基づくハワイアン文化と、本来アニミズムである神道との親和性があるのではないか。実際日系人の移住以降、それまでハワイではなかったカッパやムジナに似た妖怪の目撃証言が、ハワイ在住の白人の間で生じたり、地蔵などの石仏あるいは石神が、海難から守ってくれる「海の守護者」としてサーファーの間で、海辺に祭り続けられている例などがある。
このように日系移民がもたらした文化・信仰がハワイで受容されている現象と要因を探ろうと2月末、学生たちと共にフィールドワークに訪れた。カッパやムジナの話は、グレン・グラント(Glen Grant)さん(1947~2003年)が著書「OBAKE―Ghost Stories in Hawai’i」(お化け―ハワイの怪談)に書いている。今回、彼の後継者ともいえる“語り部”ローパカ・カパヌイ(Lopaka Kapanui)さんに会って、ローパカさんが運営するゴーストツアーにも参加させていただいた。ハワイではハワイアン、日系、中国系、ポルトガル系、フィリピン系、韓国系などの「ゴースト」がミックスされているのがよく分かった。
オーラルヒストリー(口承詔録)研究で著名なハワイ大学のデニス・オガワ(Dennis Ogawa)教授から、日系3世の学生たちが1世の聞き取り調査をしたら、全く予期せず、内容の大半がお化けに関連するものだった、という背景をうかがったのも大変輿味深かった。
昨秋、出雲でのトークイベントで小泉凡さんとご一緒した時、小泉さんのスライドの中にハワイでグラントさんとご一緒された時の写真があり、驚いた。ローパカさんにラフカディオ・ハーン(小泉八雲)のひ孫が民俗学者で、出雲で怪談ツアーをしているとお知らせしたら、とても関心を持たれた。今後、相互の交流ができないかと思っている。
ローパカさんのツアーを回っている時、別のゴーストツアーも見かけたが、そちらはいかにも怖がらせる、怖がって楽しむようなツアーに見えた。ローパカさんのツアーは、そういう肝試し、お化け屋敷的なものを期待する人たちには、つまらないものだと思うが、実際に見聞きした話と歴史を織り交ぜて淡々と語る方式、ハワイ語で唱える祝詞のようなものもあり、私はとても好印象を抱いた。
ローパカさんが松江にきて、小泉さんの怪談ツアーに参加されたら、どうお感じになるだろうか。
Lopaka Kapanuiさんのウェブサイト“MYSTERIES OF HAWAI'I”
https://mysteries-of-hawaii.com/