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新潟日報 2014年11月2日 
「民族」隠蔽の国家観に一石

鈴木聖二(新潟日報社取締役特任論説編集委員)

 連合王国イギリスでスコットランドの独立が住民投票にかけられて接戦となり、世界の注目を集めたことは記憶に新しい。個々の伝統、文化に対する誇りを背景に「自立」の道を探る動きは、スペインのカタルーニャ地方など世界各地で活性化の兆しを見せている。

歌劇「奴奈川姫」のポスター
2008年12月公演の歌劇「奴奈川姫」のポスター。出雲国風土記や古事記が出雲大神と結ばれたとする高志の国の女神、ヌナカワヒメを描いた。「まつろわぬ姫は死ぬ運命なのか」「大和朝廷が編んだ『古事記』に抗して高志の国に生まれた美しい神話」とある。

 わが国においても、民族の単一性、均質な文化という明治以降の近代国家形成過程で強化されてきた「幻想」への批判的見方はより強まっている。

 本書はそのような立場から、日本社会が内包する多様な系譜、民族性を実証的に描き、大和民族中心の国家観に一石を投じる。

 福岡県立大学准教授の著者は島根県の出雲出身。支配する側の記録である古事記、日本書紀にのみ依存する国家観が、出雲地方を中心に栄えた「出雲民族」をはじめ、エミシ、クマソなど多くの「民族」の独自性をどれほど隠蔽し、誇りを損なってきたか、その虚構性をえぐる。

 出雲族が新潟をはじめとする越の国や朝鮮半島と交流を深めていたことなどから、日本は閉鎖的な島国ではなく、開かれた海洋民族としての個性も持っていることを示す。また、「民族」としてのアイデンティティーを取り戻そうとする現在の動きにも触れている。

 いま、過剰な経済グローバリズムや金融資本主義が、社会の不安定化や格差拡大を加速している。一国の中でも、競争に勝つための効率化は一極集中を進め、地域の疲弊を招いている。

 そのような時代だからこそ、本来、地域が持つ多様性を再認識し、自立と誇りを取り戻そうとする取り組みが重要性を増す。政府による「地域創生」も、カギを握るのは、地域の主体性確立だ。

 一方では、不安定な社会は偏狭なナショナリズムにもつながりやすい。自らの国が多様な個性、民族の集合体として形成されてきたことの認識が、その克服につながることは自明だ。地域に生きるものにとって、大きな意味を持つ一冊ということができる。